https://www.mizuho-ir.co.jp/publication/contribution/2017/seikyo1701_02.html
2.AIが産業構造に与える影響
(1)第4次産業革命
AI、IoT、ビッグデータの産業への活用については、ドイツが提唱・推進している製造業の革新「インダストリー4.0」、米国におけるITと製造業の融合である「インダストリアル・インターネット」の流れが世界的なものになりつつあり、「第4次産業革命」と呼ばれることも多い。
このような流れを受けて、政府の産業構造審議会新産業構造部会は現在検討している「新産業構造ビジョン」の中間整理で「AI、ビッグデータ、IoT、ロボットの技術革新は大量データの取得・分析・実行を可能にし、情報制約の克服、物理制約の克服等を可能にし、これらとビジネスが結びつくことで[1]革新的な製品・サービスの創出(需要面)、[2]供給効率性の向上(供給面)の両面からあらゆる産業で破壊的イノベーションを通じた新しい価値が創出される」としている。
図1に示した[1]~[5]のようなことが可能になるとしており、そこへの対応の具体化が今後の産業戦略として重要であると捉えている。
これらがどの程度現実のものになるかは今後の状況次第であるが、AI、IoT、ビッグデータの産業へのインパクトの大きな方向感としては留意すべき内容であるといえよう。
図1 第4次産業革命
(資料)経済産業省 「新産業構造ビジョン」―第4次産業革命をリードする日本の戦略―
(2)AIの産業セクター別のインパクト
続いてAIの産業別の用途についてもう少し具体的にみることとする。AIの産業における機能・用途の類型は様々なものが考えられるが、ここでは「予測・検知」「自然言語処理」「画像・音声認識」という3つの分類でみることとする。
表2にAIの用途と適用される産業分野を例示した。
これを見ると、幅広い業種の様々な業務に適用されることがわかる。産業にとっての意味を大きく分けると異常検知や売上予測、各種自動化による合理化・コスト削減と「個人レベルの発注予測」「発がん・発症リスク評価」などの付加価値サービス/新サービスの創出がみられる。
一方、前節で述べたように現在主流となっている機械学習等のAIは豊富なデータの存在を前提としており、[1]自身がコアとなるデータを持っているか、[2]それを異業種のデータと組み合わせてより豊かなデータ資源を確保できるかが産業競争力の優劣に直結する可能性がある。
このような見方をすると多くの顧客データ等を保有する「ビッグデータ・プラットフォーマー」こそがAIビジネス時代には優位を持つ可能性がある。例えば、多くの顧客データを保有している通信事業者、電力・ガス事業者、共通ポイント事業者、クレジットカード事業者、ネットショッピング事業者、検索サービス事業者などが潜在的な優位性を有しているとも考えられる。ただし、単独ではそれほど多くの用途や価値を生み出すことは難しいため、業界を超えた連携のエコシステムを作り上げたところが優位になると考えられる。
また、AI・IoT・ビッグデータを活用することによって、従来の産業セクターの垣根を越えた新規参入や連携がなされる可能性がある。
典型的な例としては自動車産業が挙げられる。AIをキーテクノロジーとした自動運転が次世代自動車市場における優勝劣敗を分ける可能性があるが、現在IT企業であるグーグルが自動運転技術で先頭グループの1つとなっている。グーグル自身は「自動車の製造を行う」ことは否定しているが、自動車のもたらす付加価値のうちコアの部分を握ることになれば、自動車産業界における「分け前」も当然多くなる可能性があり、産業地図が塗り替えられることになりうる。国内でもIT系企業であるソフトバンクやディー・エヌ・エーが自動運転技術をコアとしたバスやタクシーの実証実験を行っており、他産業から自動車産業への参入の可能性は今後も高くなっていくものと考えられる。
一方、自動車製造業側も一部の企業でカーシェアリング事業に本格的に取り組むようになっている。また、有力タイヤメーカーであるミシュランはトラック向けタイヤについて、リースを行ってユーザーの使用状況をセンシングすることで走った距離分のサービス料金(メンテナンス分も含む)を徴収するサービスを展開している。このように、AI・IoT・ビッグデータをてこに製造業からサービス業への参入を図る動きもある。
また、自動車の電子化・自動運転技術の開発や製造現場で培った技術をベースにパートナーロボットの開発を手掛けている企業もみられる。これも従来の「自動車」から家庭内や屋内も含めた「モビリティ」やさらにその延長線上にある「生活行動サポート」に参入しようという動きであると考えられる。パートナーロボットのビジネスでは製造技術もさることながら、点検・メンテナンスも重要であると考えられるが、自動車産業は自動車整備分野で類似の技能やノウハウを有しており、パートナーロボットが普及した際の有力なプレーヤーになると考えられる。
このように自動車産業1つ取ってもAI・IoT・ビッグデータをキーとした相互参入が促進される可能性があることがわかる。
産業 | 応用例(分野別) | ||
---|---|---|---|
予測・検知 | 自然言語処理 | 画像・音声認識 | |
共通 |
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交通 |
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医療・介護 ヘルスケア |
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金融 |
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小売・流通 |
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メディア・ 広告 |
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エネルギー |
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製造業 |
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物流・運輸 |
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公共 |
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農林水産業 |
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その他 |
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(3)AIが流通業に与える影響
最後に、詳細は後段の各論に譲るがAIが流通業に与える影響について簡単に述べる。
まず、前項の産業別の用途でも挙げたように需要予測技術等に基づくフロント側のマーケティングの精緻化が進展すると考えられる。顧客属性や購買行動の分析が従来以上にきめ細かに可能になり、仕入れ・品揃えや店舗設計等に活用することが考えられる。また、バックヤード側では物流経路や計画の最適化、運搬・仕分け作業の自動化、さらにはドローンや自動運転モビリティによる自動配送の実現等が考えられる。
一方、前項で自動車産業を例に見た異業種との相互参入については、まず製造業が顧客1人1人からオーダーメイドの製品を既製品と同等程度のコストで注文生産する「マス・カスタマイゼーション」の実現により、消費者と製造業が直接結びついて、「流通業を飛ばした」ビジネスが成立していく可能性がある。マス・カスタマイゼーションについては繊維業のセーレンが衣服で実験的なシステムを開発し一部販売もしている。現状では百貨店と連携して実施しており、取引関係等の商慣行もあるため一足飛びに「小売店外し」にはならないと考えられるが、顧客の嗜好データの蓄積がある程度進むと必ずしも店舗を通す必要はなくなる可能性がある。また、コンタクトレンズ製造のメニコンは会員顧客の登録データ(購入内容・履歴)に基づいて生産計画を立ててプロアクティブ(購入確定前)に生産を行っているが、これも発展形としては店舗を通さずにオーダーメイドで流通コストを省いて販売することも考えられる。
また、イーコマース(電子商取引)にも新たな動きがみられる。イーコマースは認知、購買の履歴データの取得・蓄積がリアル店舗に比べて容易で豊富なデータを活用できることから、従来からレコメンドやプロモーション等にAIの解析技術が活用されてきた。最近、さらにユーザとのインターフェースでもAIの活用の可能性が出てきている。例えば、イーコマースのトップ企業であるアマゾンは「アマゾンエコー」という卓上に置く円柱形の家庭向けの音声入力端末を開発し、既に400万台以上を販売した。この端末はAIを活用したパーソナルアシスタント「アレクサ」を搭載しており、家庭で対話する形で商品の注文をすることができる。
従来のイーコマースは基本的にはパーソナルな買物が中心でリアルタイムのインタラクション(人とシステムとのやり取り)もごく限られた範囲であったのに対して、このような端末では家庭でパソコンやスマートフォンの操作が苦手であったり、生活の文脈上利用しにくいシチュエーションでもイーコマースが利用される可能性がある。アマゾンはさらに様々な企業との提携やAPIの公開によりアマゾンエコーの機能・用途を拡張しており、将来的には「家庭内コンビニ」に近い存在になることも考え得る。
このようにAIにより異業種からの参入機会が拡大することで、流通業側は改めて顧客に何の価値をどんな形で提供していくのか、今一度見つめなおして戦略を立てていく必要があろう。
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