一方の法人による完全支配関係のある法人間で行われる無対価合併の適格判定及び被合併法人が有する未処理欠損金額の引継制限について照会する場合の説明資料の記載例(記載例2)
-みなし共同事業要件により引継制限の有無を判定する場合-
《照会の前提となる事実関係について》
1 組織再編成の概要
※当事会社の名称、組織再編成の態様、実行日などを記載してください。
株式会社A社(東京都●区●1-1-1(●署))は、資本関係のない株式会社B社(東京都■区■1-1-1(■署))の発行済株式の全部を取得した後、B社を被合併法人とする吸収合併(以下「本件合併」といいます。)を行う予定です。なお、合併契約の効力発生日は、平成×2年4月1日です。
2 組織再編成の目的・経緯・背景
A社は、首都圏を中心に不動産販売業を営んでいますが、この度、商圏を拡大すべく、関西圏を中心に不動産販売業を営んでいるB社を吸収合併することを検討しています。具体的には、B社の発行済株式の全部を平成×1年12月1日に×社(A社との資本関係はありません。)から取得します。4カ月の準備期間を設け、平成×2年4月1日にB社を吸収合併することを計画しています。
3 組織再編成の当事会社が行う事業の内容及び組織再編後の事業の異動状況
(1) A社の事業
A社は、設立以降継続して店舗を保有するとともに従業員を雇用し、A社自身の名義で不動産販売業を営んでいます。×1年3月期における売上金額は××円、同期末の従業員は80人(×2年3月期中に従業員数の変更見込みなし)です。
(2) B社の事業
B社は、設立以降継続して店舗を保有するとともに従業員を雇用し、B社自身の名義で不動産販売業を営んでいます。×1年3月期における売上金額は××円、同期末の従業員は60人(×2年3月期中に従業員数の変更見込みなし)です。なお、今回の合併に伴い、B社の取締役は全て退任することとし、A社の取締役が経営に従事する見込みです。
(3) 合併後の事業の継続見込み
合併法人であるA社は、B社から引き継ぐ不動産販売業を継続する予定です。
4 組織再編成の当事会社の資本金及び株主の状況
合併法人被合併法人
A社 | B社 | |
設立年月日 | 昭和Y年4月1日 | 昭和Z年4月1日 |
決算期 | 3月 | 3月 |
資本金 | 10億円 | 2億円 |
株主 | 甲社(50%)、乙社(50%) | X社(100%) |
5 資本関係の変遷
※ 一連の組織再編成の内容を記載するとともに、組織再編成前後の資本関係を図示してください。
(1) A社は、平成×1年12月1日にB社の発行済株式の全部を×社から取得します。なお、A社と×社との間には資本関係はありません。また、B社と甲社及び乙社との間には資本関係はありません。
(2) A社は、(1)によりB社株式を取得してから本件合併前まで継続してB社の全株式を保有します。
(3) 本件合併前後のA社とB社の資本関係の変遷は次のとおりです。
6 組織再編成に伴い支払う対価の有無とその内容
本件合併においては、本件合併前に合併法人A社が被合併法人B社の発行済株式の全部を保有する関係があることから、被合併法人B社の株主であるA社には、合併法人A社の株式その他の資産は交付されません(無対価)。
7 引継ぎを受ける未処理欠損金額
本件合併により、A社はB社の未処理欠損金額●●円を引き継ぐ予定です。
8 照会者において確認したい事項
1から7の事実関係がある場合、本件合併は、適格合併に該当すると考えて差し支えないでしょうか。また、適格合併に該当するとした場合、A社は、B社の未処理欠損金額●●円について欠損金の引継制限の規定の適用を受けないと考えて差し支えないでしょうか。
具体的には、引継制限の規定の適用に当たっては、みなし共同事業要件を満たすと考えてよいでしょうか。
《確認したい事項に対する照会者の見解とその理由について》
※記載が困難な場合には、分かる範囲で記載してください。
【関係法令】※平成28年4月1日現在の法令を基に作成しています。
1 合併の適格判定について
(1) 完全支配関係
完全支配関係とは、一の者が法人の発行済株式の全部を直接若しくは間接に保有する関係として政令で定める関係(以下「当事者間の完全支配の関係」といいます。)又は一の者との間に当事者間の完全支配の関係がある法人相互の関係をいいます(法法2十二の七の六)。
そして、上記の政令で定める関係とは、一の者が法人の発行済株式の全部を保有する場合における当該一の者と当該法人との間の関係をいいます(法令4の2②)。
(2) 適格合併
合併前に合併に係る被合併法人と合併法人との間にいずれか一方の法人による完全支配関係がある場合の合併で、当該被合併法人の株主等に合併法人株式以外の資産が交付されないものは、適格合併に該当します(法法2十二の八イ、法令4の3②一)。
(3) 無対価合併
上記(2)の合併が被合併法人の株主等に合併法人の株式その他の資産が交付されない合併(以下「無対価合併」といいます。)である場合には、合併法人が被合併法人の発行済株式の全部を保有する関係があるものに限り、適格合併に該当します(法令4の3②一かっこ書)。
2 適格合併が行われた場合の被合併法人の有する未処理欠損金額の引継制限について
(1) 引継制限の概要
内国法人を合併法人とする適格合併が行われた場合には、被合併法人の未処理欠損金額は合併法人に引き継がれることとされていますが(法法57②)、当該適格合併が次のイからハのいずれの場合にも該当しないときには、合併法人は、被合併法人の未処理欠損金額について引継制限を受けます(法法57③、法令112③、④)。
イ 当該適格合併がみなし共同事業要件を満たす場合(法法57③、法令112③)。
ロ 被合併法人と合併法人との間に当該合併法人の適格合併の日の属する事業年度開始の日の5年前の日から継続して支配関係がある場合(法法57③、法令112④一)。
ハ 被合併法人又は合併法人が当該5年前の日後に設立された法人である場合であって、当該被合併法人と当該合併法人との間に当該被合併法人の設立の日又は当該合併法人の設立の日のいずれか遅い日から継続して支配関係があるとき(法法57③、法令112④二)。
(2) みなし共同事業要件
みなし共同事業要件を満たす適格合併とは、適格合併のうち次のイから二までの要件又はイ及びホの要件に該当するものをいいます(法令112③)。
イ 被合併法人が適格合併の前に営む主要な事業のうちのいずれかの事業(被合併事業)と合併法人が適格合併の前に営む事業のうちのいずれかの事業(合併事業)とが相互に関連するものであること(事業関連性要件)
ロ 被合併事業と合併事業のそれぞれの売上金額、従業者の数、被合併法人と合併法人のそれぞれの資本金の額又はこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないこと(事業規模要件)
ハ 被合併事業が被合併法人と合併法人との間に最後に支配関係があることとなった時からその適格合併の直前の時まで継続して営まれており、かつ、その最後に支配関係があることとなった時とその適格合併の直前の時における被合併事業の規模(ロで採用したのと同じ指標)の割合がおおむね2倍を超えないこと(被合併事業の規模継続要件)
ニ 合併事業が合併法人と被合併法人との間に最後に支配関係があることとなった時からその適格合併の直前の時まで継続して営まれており、かつ、その最後に支配関係があることとなった時とその適格合併の直前の時における合併事業の規模(ロで採用したのと同じ指標)の割合がおおむね2倍を超えないこと(合併事業の規模継続要件)
ホ 被合併法人の適格合併の前における特定役員(社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役又はこれらに準ずる者で法人の経営に従事している者をいいます。以下同じ。)である者のいずれかの者と合併法人の適格合併の前における特定役員である者のいずれかの者とがその適格合併の後に合併法人の特定役員となることが見込まれていること(特定役員引継要件)
(3) 事業関連性要件
上記(2)イの事業関連性要件について、次の全てに該当する合併は、事業関連性要件を満たすものとされています(法規3①、26)。
イ 被合併法人及び合併法人が、合併の直前において、それぞれ次に掲げる要件の全てに該当すること
① 事務所、店舗、工場その他の固定施設を保有し、又は賃借していること
② 従業者があること
③ 自己の名義をもって、かつ、自己の計算において商品販売等をしていること
ロ 被合併事業と合併事業との間に当該合併の直前において、被合併事業と合併事業とが同種のものであるなどの関係があること
【照会者の見解】
1 本件合併の適格判定について
本件合併前において一の者であるA社は、B社の発行済株式の全部を保有していることから、被合併法人であるB社と合併法人であるA社との間にはA社による完全支配関係があることとなります。また、本件合併は無対価合併であるところ、本件合併前にA社がB社の発行済株式の全部を保有する関係があることから、本件合併は適格合併に該当することとなります。
2 本件合併に係る未処理欠損金額の引継制限について
被合併法人であるB社と合併法人であるA社との間の資本関係は、平成×1年12月1日以後生じていますので、上記の関係法令の2(1)のロとハのいずれにも該当しません。したがって、以下では、本件適格合併が2(1)のイのみなし共同事業要件を満たすかについて検討します。
(1) 事業関連性要件について
被合併法人であるB社と合併法人であるA社は、合併の直前において、それぞれ店舗を有するとともに従業者を有しています。また、設立以降継続して、自己の名義において不動産を販売し収入を得ていることなどからすると、自己の名義をもって、かつ、自己の計算において不動産販売業を営んでいるといえます。
そして、被合併法人であるB社が適格合併の前に営む主要な事業(被合併事業)と合併法人であるA社が適格合併の前に営む事業(合併事業)は、いずれも不動産販売業であり、同種の事業といえますので、事業関連性要件を満たします。
(2) 事業規模要件について
B社が適格合併の前に営む被合併事業(不動産販売業)の従業者は60人であり、A社が適格合併の前に営む合併事業(不動産販売業)の従業者は80人です。したがって、被合併事業と合併事業の規模(従業者の数)の割合は5倍を超えず、事業規模要件を満たします。
(3) 被合併事業の規模継続要件について
B社が適格合併の前に営む被合併事業(不動産販売業)は、合併法人であるA社との間に資本関係が発生した平成×1年12月1日から適格合併の直前の時まで継続して営まれています。また、平成×1年12月1日における従業者の数と適格合併の直前の時における従業者の数は同数ですので、被合併事業の規模継続要件を満たします。
(4) 合併事業の規模継続要件について
A社が適格合併の前に営む合併事業(不動産販売業)は、被合併法人であるB社との間に資本関係が発生した平成×1年12月1日から適格合併の直前の時まで継続して営まれています。また、平成×1年12月1日における従業者の数と適格合併の直前の時における従業者の数は同数ですので、合併事業の規模継続要件を満たします。
(5) 特定役員引継要件について
被合併法人であるB社の適格合併の前における特定役員である者は、全て退任することが見込まれていますので、特定役員引継要件は満たさないこととなります。
(1)から(5)のとおり、本件適格合併は、上記の関係法令の2(2)に掲げる要件のうち、ホ以外の要件(イから二までの要件)を満たしますので、みなし共同事業要件を満たします。したがって、合併法人であるA社は、被合併法人であるB社の未処理欠損金額を引き継ぐことができます(引継制限を受けません)。
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