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ロボットの基幹部品となる精密減速機の小型分野で世界最大手。大手ロボットメーカーの商品を支える。日本電産という強力なライバルが出現したが、徹底したカスタムメード対応で顧客を離さない。磨くのは、顧客の動向をいち早くつかみ、ニーズを聞き出す営業部隊の提案力と、多品種少量に向く製造力だ。

 

 

 

長野県安曇野市にある穂高工場。大手ロボットメーカー向けにカスタムメードした減速機がずらりと並ぶ(写真=堀田 雅之)
 

日本電産も跳ね返す ハーモニック流、提案力の築き方

ロボットの基幹部品となる精密減速機の小型分野で世界最大手。大手ロボットメーカーの商品を支える。日本電産という強力なライバルが出現したが、徹底したカスタムメード対応で顧客を

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 今年9月12日。中国・上海にはスイスABBのピーター・ボーザーCEO(最高経営責任者)ら世界の機械関連メーカーの経営幹部が集まっていた。ロボット工場の起工式のために同社が招待したサプライヤーのうち日本企業はわずか3社。その1社が、精密減速機大手のハーモニック・ドライブ・システムズだ。

 精密減速機とは、主にロボットの関節部分に使われる基幹部品だ。モーターの高速回転をトルクに変換する役割を持ち、ロボットの動作速度や精度、耐久性を大きく左右する。産業用ロボットの需要が急増した2017年から18年にかけては減速機の供給が遅れ、ロボットメーカー幹部がハーモニックの現場を視察に来るほど欠かせない存在となっている。

 

 ハーモニックが手掛ける「波動歯車減速機」の基本部品はわずか3点で、小型軽量と高い精度が特徴だ。小型精密減速機の世界シェアは80%の首位で、ロボットだけでなく、日産自動車が開発した世界初の量産型可変圧縮比エンジンや小惑星探査機「はやぶさ」でも採用されている。

 波動歯車減速機の基本特許は既に切れており、これまでも機械部品メーカーが参入する動きはあったが、ハーモニックから顧客を奪うことはできなかった。しかし、ここにきて強力なライバルが現れようとしている。15年に市場参入を発表した日本電産だ。

 永守重信会長CEOの号令のもと、18年には減速機事業に計2000億円を投じる計画が明らかになり、新工場の建設やドイツ企業の買収など本格的に動き始めた。

ロボット需要の動向で売上高が大きく変化
●ハーモニックの連結売上高の推移と、単体の用途別売上高の割合
注:19年3月期
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 日本電産にとってハーモニックの牙城は魅力的だ。ハーモニック製品の価格は高いことで有名で、競合が価格勝負を仕掛けてくる中、価格で勝負をすることはない。19年3月期の売上高は前期比24.8%増の678億円で、営業利益は同34.2%増の169億円。約25%の売上高営業利益率がそれを物語る。

 さらに17、18年は注文が殺到したことで、注文から納品まで従来の倍以上の日数がかかっていた。日本電産はそうした顧客の不満を起点にシェアを奪い取ろうと猛攻を仕掛けた。「これまで登場したライバルと同じようにはいかないのではないか」。ハーモニックの経営を不安視する声も上がった。

常道と違う「横」の営業

 それでも現状、「主要ロボットメーカーで脱ハーモニックは1つも起きていない」(長井啓社長)。ある大手ロボットメーカーの幹部は「日本電産の製品を検討したが、やっぱり使えない。ハーモニックはすごい」と打ち明ける。

 長井社長の言葉やロボットメーカーの動きを見てか、11月下旬に都内で開催された20年3月期の第2四半期決算説明会では、日本電産参入の経営への影響に関する質問は出なかった。

 

 耐久性や精度といった品質の高さは、長年減速機を手掛けるハーモニックに一日の長がある。しかしそれだけではない。実はハーモニックの製品の90%以上はカスタムメード品。顧客が求める性能やデザインによって、歯の数や穴あけの位置などを変えなければならない。長井社長は「当社は所詮、部品屋。だから顧客の要望を引き出し、製品に落とし込む力を磨いてきた。簡単にはまねされない」と話す。

 いかに顧客のニーズを的確に把握し、カスタムメード品の満足度を高めるか。そのカギは営業にある。

製品はロボットだけでなく車や宇宙関連機器にも採用される
●ハーモニックの製品を採用している主な製品
(写真=上右:共同通信、下中央:つのだよしお/アフロ、下右:Photo12/Getty Images)
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 「幅広い階層にコンタクトしろ」。営業経験者なら誰しもが聞いたことがあるだろうせりふも、ハーモニックではその意味が異なる。機械メーカーの営業といえば、まず顧客の開発や調達・購買部門の担当者と接点を持ち、予算や権限を握るその上司など「縦方向」のコンタクトを重視するのが常道だ。

 しかし、ハーモニックは違う。営業は担当者の後輩にも接点を持つことが求められる。さらに生産技術や品質保証、営業など幅広い部署の担当者とつながりを作るよう徹底する。

 狙いは情報だ。マーケティングと営業を担当する矢代道也執行役員は「顧客が抱えているプロジェクトの中身を聞いてこいと伝えている」と話す。

 顧客が詳細な設計図を引いた後に、ハーモニックに相談があっても、既に据え付け場所や形状など決まっており制約が大きくなる。減速機の性能を効率よく引き出すのは難しくなり、顧客の製品スペックにも影響しかねない。ハーモニックにとっても自社の製造工程が複雑になるリスクもある。だからこそ、プロジェクトの構想段階から入り込む必要があるのだ。

 横方向の営業が受注につながることもある。たとえばある装置メーカーから新規受注を獲得したケース。ハーモニックの営業担当者がその装置メーカーの納入先のプロジェクトの内容を入手し、最適な減速機を組み込んだモジュールを開発して提案した。

 最近では機械各社が次世代のものづくりを模索しており、「ものづくり推進室」といった専門チームを設けていることも多い。そうした組織とも関係を深めておくことで、プロジェクトの構想段階から「声がかかりやすいような体制にしている」(矢代執行役員)。

営業は1つの会社と深く付き合い、新規顧客開拓につなげる
●ハーモニックの営業の考え方
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